東京高等裁判所 昭和40年(人ナ)2号 決定
請求者 青木操
〔抄 録〕
一、本件請求の趣旨は「被拘束者を適当な診断治療を行い得る施設に移送するか又は釈放する。」旨の裁判を求め、その請求の理由は別紙「請求の趣旨」、「補充書」、「人身保護法による違法救済請求に対する補正書」と題する書面記載のとおりである。
二、決定の理由
請求者の請求理由によると、(一)請求者は昭和三五年一二月七日刑の執行の停止をうけ、昭和四〇年四月再収監され現に八王子医療刑務所に在監中の者である。(二)請求者は身体障害者福祉法に基づく身体障害者手帳を有する者で、その級別は一種の二級で社会的盲人の認定をうけている。右刑務所の嘱託医(眼科専門)倉田和美の診断によると「病名両眼黄斑部変性症葡萄膜炎白内障、手術後後遺症(後発白内障ならびに瞳孔変位)視力、眼前手動のみにして矯正不能」というのである。(三)請求者がこのままあらゆる救済手段を棄却され、満期に出所したとしても、出所後に受ける不当な不利益ははかりしれない。(四)請求者のような病状にある者に対しては、行刑の目的を達することはできない。これが釈放をせずに、刑の執行を継続すれば、受刑者およびその家族に対して不当な不利益を与えることになるばかりである。(五)右刑務所には、請求者の疾病に対する専門医の配置がなく、病勢に対応する適宜な処置をとり得ない。このようなところに拘束することは請求者にとり精神的および肉体的に不当な拘束である。(六)よつて、請求者を適当なる診断治療を行い得る施設に移送するか、刑の執行停止によつて請求者が任意な立場で令名ある医師のもとで診断を受けることができるように即時釈放すべきである。というのである。
しかし、右主張から明らかなように、請求者を八王子医療刑務所に拘束していることは、刑の執行として拘束しているものであり、法律上正当な手続によつている事は明らかである。ただ、請求者は、眼病を患い、拘束を継続することは請求者に不当な不利益を与えるというが、請求者が拘束されているところは医療刑務所であり、専門医の配置はないにしても、嘱託の専門医がいるのであるから、治療がなし得ないとはいい難く、またこのような請求者を拘束することが直ちに行刑の目的を達し得ないとはいえない。以上の事柄はいずれも刑の執行の面において考慮すべき事であり、人身保護法により救済する「法律上正当な手続によらないで身体の自由を拘束されている者」の救済とは別個の事柄である。
してみると、本件請求はその理由のないこと明白であるから人身保護法第一一条第一項に則り、審問手続を経ずに決定をもつてこれを棄却すべきものとし、手続費用につき同法第一七条を適用して主文のとおり決定する。
(千種 渡辺一 岡田)